【三次元動作解析の基本】概要と動作解析装置について

本記事では三次元動作解析の基本として、概要や測定装置の種類、それぞれの特徴についてまとめています。そのうえでどのような分野・領域で利用することができるのかをまとめましたのでご参考にしてください。

目次

三次元動作解析とはなにか?

三次元動作解析の概要

三次元動作解析は字のごとく、身体の動作や物体の運動を三次元で計測し、解析する技術です。三次元動作解析はスポーツ分野やリハビリテーション、エンジニアリング、映画・動画制作など幅広い分野で活用されています。三次元での精密な測定データは、動作や運動の現状を把握するとともに最適化していくことに活用することができます。

三次元動作解析には専用の機器が必要となります。そのため、三次元動作解析を定期的に活用できているという人はかなり少数だと思います。三次元動作解析装置については詳しく後述していきますが、近年ではスマホで気軽に測定できるものも登場しています。ビデオカメラが誰でも簡単に使えるようになったように、今後は三次元動作解析がより身近なものになってくると思います。

なぜ三次元三次元動作重要なのか

身体の動作や物体の運動は三次元上でなされています。簡単に言えば、上下・左右・前後など、3つの軸や面によって動作・運動はなされています。ビデオカメラなどの二次元ではこれらのいずれか1つが測定されていません。そのため、問題点の見落としや正確な動作を把握することができない場合があります。

アスリートやリハビリテーション患者さんにおいては正確な動作の把握が必要になる場面も多くあります。当然、熟練の方で目で見た観察がとんでもないレベルの人はいます。しかし、すべての人がその領域に行けるわけでもなく、その領域の人ができることにも限界はあります。そこで三次元動作解析のデータを用いることで多くの人が高いレベルの解析を行うことができます。

そもそも三次元動作解析をすること自体必要ないと思う方もいるかと思います。特にアスリートでは自分自身の感覚に重きをおいてしている方も多いと思います。確かに、鋭い感覚だけで強くなれる人もいますが多くのアスリートはそうではありません。実際には自分自身の動作すら正確に把握できてないアスリートが多くいます。そもそも、現状を正確に把握できていなければ改善することも困難です。動作を正確に把握し、問題点・改善点をピックアップし練習を行う。練習した結果、動作が良くなったのか、取り組んだ課題が正しい方向でできているかを確認することがパフォーマンス向上に大きな影響を与えます。そのため三次元動作解析は重要であるといえます。

三次元動作解析の歴史と進化

先に述べたように、三次元動作解析を行うためには専用の機器が必要となることが多く、まだ馴染みの少ない人も多いかと思います。これまでの三次元動作解析装置は高価なものが多く、一般の人が気軽に購入できないどころか、見ることすらないと思います。更には、三次元動作解析には専用の施設で大掛かりなイメージを持っている方も多いと思います。しかしながら、近年では比較的安価で中にはスマホでも三次元動作解析ができてしまうものまで登場しています。

三次元動作解析の歴史は三次元動作解析装置の技術進歩の歴史とともに発展してきました。また、今後はさらに技術が進歩することで、三次元動作解析が身近なものになってきます。

三次元動作解析装置の概要については後述しますが、これまでは全身にマーカーをつけて専用のカメラで撮影するもの(モーションキャプチャ)や、多数のビデオカメラを設置し同期したうえで撮影し高度な解析を必要とするもの(DLT法)などが主流でした。近年ではセンサーを身体の各体節に付けることでカメラが無くても測定できるものが多く登場しています。ただ、新しい技術がすべての分野で適しているわけではありません。それぞれの技術にはメリット・デメリットがあり、目的とする動作・運動、その環境を考慮することが必要です。

三次元動作解析の用途

スポーツでの利用

スポーツ分野で三次元動作解析は昔から活用されてきました。スポーツ分野ではアスリートが自分の動作を把握し改善するためだけではなく、指導者が正しく動作をみれているか、研究としてパフォーマンスに関連する要因を抽出するためなど多くの目的をもって利用することができます。

リハビリテーションでの利用

リハビリテーションでは、人間らしく、自分らしく生きることに対してサポートしていきます。その根幹の一部として、動作を改善すること、機能回復が求められます。リハビリテーションにおいて動作解析は、機能回復を図るために役立ちます。また、その結果を詳細に解析していくことで研究としての活用も可能です。

スピードスケート・ショートトラックにおける活用事例

ここでは私が実際に行っているスピードスケート・ショートトラック選手に対する動作解析サポートについて紹介いたします。スピードスケートやショートトラックでは広いアイスリンクで滑走するため、動作解析の測定範囲が広大になってしまいます。動作解析装置については後述しますが、測定範囲は測定機器を選ぶ際に重要なポイントとなります。氷上滑走においてはモーションキャプチャによる測定はかなり難しいです。そのため、センサーによる測定を基本としています。

現在使用しているセンサーはIMU(Inertial Measurement Unit)と呼ばれるもので、加速度、角速度、地磁気から関節角度を算出します。ここだけ聞くとよくわからないかと思いますが基本的にはシステムが自動で算出してくれます。また、リアルタイムでのデータ表示か可能であり即時フィードバックすることができます。

IMUでは全身の主要関節の測定は可能ですが、スピードスケートではセンサーによる選手への干渉を減らすことも考え下半身のみで現在は測定を実施しています。測定後は5~10分程度でデータのフィードバックを選手に行います。フィードバック実施後は改善点を相談・抽出し、練習してもらいます。練習後に再度測定を行い改善点が修正できているか、正しい方向へ修正できているかを確認します。

また、システム上だけでは算出できない項目に関しては解析プログラムを作成し検討しています。プログラムは基本的にはMATLABを使用しております。立脚時間や遊脚時間、各タイミングでの関節角度の変化量等を算出し検討しています。

スピードスケートでのプログラミングを活用した動作解析は以下の記事にまとめてありますのでご覧ください!

三次元動作解析の技術と機器

センサー技術とモーションキャプチャの基本

IMU

IMUは慣性計測装置とも呼ばれ、慣性センサーを用いることで身体や物体の運動を測定することができます。慣性センサーは、加速度計・ジャイロセンサー・地磁気計から構成されています。慣性センサーを組み合わせることで身体や物体の位置・速度・加速度・角速度・方向などを測定することができます。

メリット
デメリット
  • 測定範囲の制限が少ない
  • 測定・解析が簡便
  • 測定精度が高い
  • リアルタイムでの測定が可能
  • センサーの貼付が必要
  • 地磁気の影響を受けやすい
  • 小さな関節の測定は難しい

IMUのメリットとして、使用するデバイスによりますがセンサーに記憶媒体が内蔵されているものであれば、カメラでの撮影が不要であるため測定範囲の制限が限りなく少ないことがあげられます。特に、私が行っているスピードスケートは400mのスケートリンクを周回するため、カメラによる測定はかなり大規模な研究と施設が必要になってしまい実現可能性が低く、IMUが適しています。

また、IMUではソフトウェアにもよりますがリアルタイムでのデータ表示が可能でありデータのフィードバックを即時に行えるメリットもあります。特にスポーツやリハビリテーションで使用する際にはフィードバックを迅速に行うことで測定時の動きが記憶にある状態でフィードバックできるため効果が高まります。

一方でデメリットとしては、センサーを貼付する必要があるため対象者への干渉があることです。センサーは徐々に小型化され現在ではほとんど制限にならない程度にはなってきていますがモーションキャプチャと比較するとまだ存在感があります。また、地磁気系が内蔵されているため、電子機器や金属などの近くでは地磁気が乱れ設定が難しくなることがあります。

現在、私はmyoMOTION (Noraxon)というIMUを主に使用しています。16個のセンサーで全身の主な関節角度を則することができます。また、レシーバーの範囲外であっても記憶媒体が内蔵されておりどこにいってもその後にデータ回収が可能です。

モーションキャプチャ

モーションキャプチャは反射マーカーを身体や物体に貼付し、専用のカメラで撮影することで運動を測定することができます。カメラから赤外線を発しマーカーで反射したものをカメラでとらえることでマーカーの位置を測定しています。測定したマーカーの座標から関節の角度や速度などを測定することができます。

メリット
デメリット
  • 対象者への干渉が少ない
  • 測定精度が高い
  • 小さい関節なども測定可能
  • 地磁気の影響は関係ない
  • 測定範囲の制限が強い
  • リアルタイムでの測定が難しい
  • 測定・解析がやや大変

モーションキャプチャのメリットとしてはマーカーの貼付のみで対象者への干渉が少ないことです。また、マーカーが小さいため指先の動きなど小さい関節の動きを測定することも可能です。IMUと異なり地磁気の影響は関係ありませんが日光や蛍光灯などの赤外線を含む光には弱い特徴があります。

一方でデメリットとしては、測定範囲がカメラでの撮影範囲に限られることです。カメラを多く用意すればそれだけ広く測定することは可能ですが多くのデバイスが高価であり実現可能性は低いでしょう。また、座標系から角度や速度などを算出するため、リアルタイムでのデータ表示が難しいことがあります。そのため、即時のフィードバックには適さず研究ベースでの利用が多くなってしまいます。

スマホ/ビデオカメラ+AI

現在ではスマホやビデオカメラで撮影することでAIが自動で対象者の身体の動きを把握し角度や速度を測定できるものがあります。スマホアプリでもゴルフのスイングなどでアプリが多く登場してきていますがこれらは二次元での測定がほとんどでした。しかしながら近年、スマホ2台とPCを同期させて三次元で動作解析できるものが登場しました。それも無料です。まだ測定精度としてはIMUやモーションキャプチャに劣るものの測定の簡便さと導入のしやすさは各段に向上しました。AI技術の進歩とともに今後大きく成長してくる分野だと思います。

メリット
デメリット
  • 測定が簡便
  • 測定機器が比較的安価
  • 対象者への干渉がない
  • 測定精度が低い
  • 二次元での解析が多い
  • 測定範囲の制限が強い
  • 小さな関節の測定が難しい
  • 解析に時間がかかる

メリットとしては何といっても測定の簡便さと低コストであることです。ルーチンでの測定としてはかなり有用なシステムです。また、カメラでの撮影のみで測定可能で対象者への干渉がないことも大きなメリットです。

一方でデメリットとしては、二次元での測定が多く、三次元のものでも測定精度がまだ低いことです。また、IMUと同様、主要な大きな関節の測定は可能ですが、小さな関節の測定は難しいこともあげられます。測定範囲もカメラでの撮影可能範囲に限られます。システムによっては測定データの算出までに多くの時間を要することもあります。

測定機器の選択

三次元動作解析装置には、IMU・モーションキャプチャ・AIなどの種類がありそれぞれにメリット・デメリットがあります。どの機器を測定に用いることが望ましいのでしょうか。答えとしては目的とする動作と環境によります。先に述べたようにスピードスケートではIMUでないと測定自体がかなり難しい環境です。一方で、野球やゴルフなどのスイングをはじめとした特定の場所で実施可能なものであればモーションキャプチャ、歩行などを簡便に確認したければAIなど、特性に応じて考える必要があります。

IMUやモーションキャプチャは高価でどちらも利用できることはほとんどないと思います。しかしながら、今後はAIを活用した動作解析でより簡便で安価に三次元動作解析を実施できるようになってきます。それぞれ特徴を理解し適したものを選択できると良いと思います。

まとめ

三次元動作解析はスポーツやリハビリテーションなど幅広い分野で活用されています。しかしながら、まだ測定機器が高価であることや専門知識が必要であることからも気軽にルーチンとして測定できているところはかなり少ない現状です。それでも以前より身近なものになってきており、今後はさらに気軽に実施できるものになってきます。

三次元動作解析を通じてスポーツやリハビリテーションなどでパフォーマンスの向上ができるとしたら皆さんやってみたくはないでしょうか?

自分の動きを正確に把握するだけでも大きな価値があります。

スピードスケートの三次元動作解析については以下のページにてまとめていますのでご覧ください。

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この記事を書いた人

マニアックな分野でマニアックなことをしています。13年間スピードスケートを現役選手としてしていました。その後はスピードスケートの研究を続けています。活動の発信や、マイナースポーツでマニアックなことをしている人と関わりが広がればうれしいです。

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